冬薔薇(ふゆそうび)を詠んだ句はたくさんあるが、高浜虚子のこの一句はその本質を素直に表しているのではないだろうか。
冬薔薇一輪風に揉まれをり
うっかり咲き残ってしまった一輪のバラが北風に揺れる様が目に浮かぶ。
屋外で冬薔薇を撮影するのは骨が折れる。防寒着で身を固め、冬装備万端、意を決して庭に出る。シャッタースピードを調整して風を表現する技術は持ち合わせず、ひたすら無風の瞬間を待つ。構図を決めて焦点を合わせ、シャッターを半押しにして待っているといつまで経っても風がやまない。ところが、待ちくたびれてカメラを置いた時に限って風がやみ、慌ててカメラを構えるや嫌がらせのように吹き始めるのである。
これはやっとの思いで撮った「ホット花巻」。中輪房咲き系のバラで、岩手県花巻温泉にある花巻温泉バラ園で作出された。オンシーズンにはもっとピンクが強いが、日射しが弱い冬の季節だとこんな和の趣の花になる。
一句捻ろうと唸ってみたが捻ったのは首だけ。せめて写真で湯の里出身のこのバラのほっこりした雰囲気を表現しようとしてみたがどんなものだろう。
もうずいぶん前になるが、国際バラとガーデニングショウでやなぎ妻がホット花巻を使った盛り花を出品したところ、たまたま来場していた作出者の伊藤幸男さんに喜んで頂いたことがある。花巻温泉の柔らかな湯、花巻温泉バラ園にある宮沢賢治設計の日時計花壇・・・眺めていると出で湯の如く思い出が湧き出す冬薔薇だ。